Insane Magic
「怖い?どうして?」
「人間達は、皆この翼を見ると顔色を変えた。…血相を変えて、殺そうとしてきた」
「そうね」
「……怖くないのか」
其処まで言われても、自分でも不思議になってしまう程にシスターに恐怖の感情は芽生えなかった。
それどころか、弱っているようにも見える目の前の少年を母親の如く抱き締めたいとも思っていた。
まるで、居場所の無い幼い子供のように見えたからだ。
「その子も、弱ってしまっているわ。手当てしてあげましょう?」
「……魔物だぞ、良いのか」
「ええ、もちろんよ。あなたはその子を放ってはおけないのでしょう?…さあ」
「…………」
すると、彼は多少の逡巡の後に小さく頷く。
足元で倒れている小さなウサギ型の魔物を両手で抱き上げ、そっと手の平で撫でつける様は、やはりシスターには悪魔になど見えなかった。
本当は悪魔なのかもしれない。
魔物なのかもしれない。
それでも、シスターは構わなかった。
行き場が無いなら、修道院で少しの間でも過ごせば良い。
シスターが面倒を見ているのは、皆が身寄りの無い子供達ばかりだ。
彼が何者なのかは定かではなくとも、シスターにとっては自分が面倒を見る子供達も彼も、あまり大差は無かった。
目の前で血を流し傷ついている子供、と言うだけで保護するには充分だった。