夜桜と朧月
「もうすぐクリスマスだろ?咲希と多希にプレゼントを買いに行ってきたいんだけど……。今ちょっと行って来ても良いかな?」


さっきより赤く染まった顔をしたお義兄さんが、なんだか年上の男の人には到底見えなくて、ついつい笑って頷いた。


「いいですよ。あとは靴下を選ぶだけだし。買い物が終わったら、上のフロアのファミレスで待ってますね」


ありがとう、と一言言うと、お義兄さんは足早にその場を立ち去った。


男の人には、ちょっと居辛いよね、赤ちゃん服売り場って。



苦笑して咲希と多希の残り物を選ぶと、結構重くなった買い物袋をぶら下げて、上のフロアへ足を進めた。



お昼時のレストラン街はどこも満員で、少し待たねばならないようだ。


番号札を受け取り、待ち合い椅子に掛けて双子をあやしていると、お義兄さんがやってきた。


「ごめんね、遅くなって」


息を切らして汗を掻いているお義兄さんに、思わずどれだけ全力疾走したんだと突っ込みたくなったが、その両手に何も持っていないのに気がついて、私は怪訝そうに見遣った。


「ああ、プレゼント?今車に置いてきた。クリスマスまでのお楽しみ、でね」


お義兄さんは、悪戯っ子のようにくすくす笑った。



それを眺めていた老夫婦が、目を細める。


「可愛いねぇ。双子ちゃんなの?何ヵ月?」

「二ヶ月です」



お義兄さんは決まり悪そうにしているし、無視する訳にもいかないので、私が笑顔を張り付けて応じた。


「やっぱりね、パパとママ、二人揃ってるのが子供には一番良いのよねぇ」

ちくん。

私とお義兄さんは、そんな風に見えるのかな?


私は、この子達の母親の替わりにはなりたいと願った。


けれど、女性として、お義兄さんの横に立ちたいと願った事はない。

だってその場所は、姉がいるべき場所だったから。



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