夜桜と朧月
胸には、さっきの老夫婦が言った言葉が抜けない棘のように刺さっている。



「パパとママ、一緒にいるのが……」


そうできない場合は、どうすればいいんだろう?

いくら考えても、答えは出なかった。




ようやく席が空き、卓に通されたときはみんな空腹で、やたら無口になっていた。


まずは子供達にミルクをあげないと……。


メニューをオーダーした後、料理が運ばれてくる前に、二人を抱っこしてミルクを飲ませてあげた。



私が頼んだのが懐石和膳だったから、お味噌汁の上澄みなら飲ませても大丈夫かな?様子を見ながら、だけど。



「まださ、硬い食べ物とかは食べさせちゃ駄目なんだよね?」



真面目な顔をしてきくお義兄さんにぷふっと吹き出した。


「まだも何も。薄い味の汁物しか与えられませんよー?でも、与える食べ物に神経質になりすぎて、将来好き嫌いが激しくなってもこまるから、咲希と多希が興味を持った食べ物を、唇にちょっとだけつけてあげるのもスキンシップだと思います。そうするとほら、自分も皆と一緒に食べてるって思うじゃないですか」


お義兄さんは感心したように「へぇぇ、そういうもんなんだー」と、目を丸くした。


「咲希も多希も、ちゃんと一人前の人間なんですから。身長や体重だけじゃなくて、心も物凄い早さで成長してるんですよー」



昨日は出来なかった、物を掴むと言うこと。お気に入りの玩具をとって欲しいとせがむ事。そう、この子らは日々成長している。


「……おかしいよね」


寂しげに呟いたお義兄さんの声音に思わず振り向く。


「……何が、ですか?」


哀しげなお義兄さんの目には、靄がかかっているようで……。


「子供は前へ進めるのに、大人が何時までも立ち止まったままだなんて」

……お義兄さんの時間は、姉が亡くなった時から止まったままなのか?



咲希と多希がいるのに?



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