夜桜と朧月
その気持ちは、分からなくはない。それでも、いつかは人はその時間を、再び動かし始めなくてはならない。



大切な人を亡くして、心にぽっかり空いてしまった穴は、何時かは塞がれるのだ。



動き出す、時間と共に。




私は、それを母の死で学んだ。




「……それは、違うと思う……」



ぽつりと反論した私の顔を、お義兄さんが除き見た。



「だって、お義兄さんには咲希も多希もいる。最初から親が親だなんて言えるわけない。子供が生後一ヶ月なら、親だってまだ一ヶ月のスキルしかないんですよ?子供と一緒に成長しないと、駄目じゃないですか」



キツい言い方にならないように、できるだけ優しく言ったつもりだが、聞きようによっては生意気な発言にとらえられただろうか?



恐る恐るお義兄さんの顔を伺うと、こちらを見て、優しく微笑んでいた。



「叱ってくれて、ありがと」



きまりが悪くなった私はと言えば、「いえ…」とか「まあ…」とか、言葉にならないことをもごもご呟いていた。




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