夜桜と朧月

「……いえ……。とても、深く姉を愛しているんだなーって……思いました。強くないと、そんな事、出来ない」



それは嘘偽りない気持ちで。



「違うよ……。弱いんだよ、俺は……」



そういうお義兄さんの顔は今にも泣きそうで。



「そんな……」



それ以上の言葉は飲み込まれた。



「俺、いつも感謝してる。もし、真愛がいなかったら、俺が咲希と多希を保育施設に預けて、くたくたに疲れて帰った後、家事やって、寝かしつけしなきゃいけなくて。多分そんな生活、二年も持たない。きっと誰かにすがりつきたくなる。だから、今では、多分咲希や多希より、俺の方が真愛に依存してる」




姉の死以来、初めて聞くお義兄さんの弱音を、私は黙って受け止めた。



「今ではさ、あいつとお前が、同じぐらい大事な奴になってんの。子供達にも、俺自身にも」



テーブルに乗せていた手は、軽く握られ、持ち上げられる。



その指先に、触れるか触れないかのキス。



「……私は、お姉ちゃんの替わり……？」



そうだとしたら、もうここには居られない。


お義兄さんが、姉の替わりの『女性』を私に求めるのならば。