夜桜と朧月
薫への返信メールには、じいじ(お父さん)のおはようムービーを添付して送りつけた。

あくまでこれは孫達用に。


薫への本文には『今日は飲み会なので、ちょっと遅くなるかもです』と、付け加えておいた。


その日の午前中は黙々と昨日の続きの大掃除を全て終らせ、午後には年末年始に使うご馳走の食材を買いに走った。


お節や豪華な一品料理なんてあんまり作ったことがないから、まず書店に行ってレシピを買い、それに載っていた食材を大量に買い込んだ。


気が付いたら既に夕方の5時30分。


今からシャワーを浴びてメイクし直して行ったら、ちょうど飲み会に間に合うぐらいの程好い時間だ。


シャワーを浴びて、久しぶりに気合いをいれてメイクを施していく。


会社勤め時代は、いつもきっちり隙がないくらい作り込んでいたのに、咲希と多希の世話をするようになってからは、最低限の御座なりのメイクしかしていなかった。


お酒を飲むことを考えれば車で行くのは無駄だと思ったので、行きの足にはバスを使う事にした。



バスに揺られること30分あまり。


集合場所の丸井屋の前。時刻は7時より5分前。


まだ誰も来てないかなー…と思いつつも、暖簾を潜って、仲居さんを呼び止める。あっ……。幹事は誰がやってるのかを聞きそびれてた!



「よー!椿じゃね!?」



後ろから私を呼び止めたのは、チヒロと春日君。

良かった、迷うとこだった!



「やーだ、なつかしー!卒業式以来!?」

「卒業してからアンタからは一回も連絡なかったじゃん!?どうなってんのマジで!?」


チヒロの口調は、キレてるんだか懐かしんでるんだか、分からない。

でもそのぶっきらぼうさが、チヒロの良いところだろう。


「今まで営業やってたからさ、全然時間無くて。今は仕事辞めたんだけどね」

「はっ!?仕事辞めたのか、椿!?」


春日君が目を見開いて驚いた。


出入口に陣取っていたので、通行の邪魔になると気付いた私達は、予約されていた個室に案内された。

今日集まるのは、男女合わせて15人だという事だが、まだ半分ぐらいしか来ていなかった。



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