夜桜と朧月
「……私が何を言いたいか、分かってるんでしょ……?」




出来るならば。

彼から切り出して欲しいと願った。

お互いに自由になる道を、彼から示して欲しかった。




「……分かんない」



そんな風に、しらばっくれてだけはほしくはなかった。





何故なら……―――――。



「浮気、したでしょ?」




この一言を、言いたくなかったから。





「……ごめん……」




認められるのも、嫌だった。




「もうさ、私達、別れよう?」




ほら。


別れてしまえば、あとはお互いにスッキリするんだから、もう別々の道を歩こうよ。



そう念じて楓の顔を、この日初めて見上げた。



「……ごめん……。俺は、真愛と、別れる気は、ない」




ゆっくり噛み締めるように言った楓の言葉は聞き取れないぐらい微かなもので。




でも、私はこの状態が嫌だったから、一方的に楓を詰った。こんなにヒステリー起こしたくない、みっともない姿を見せたくないから別れたいと言ったのに。




楓はどんな事をしても、いつでも絶対に『別れる』という選択だけはさせてくれなかった。




それは、彼がどんな女と関係を持った後でも同じ結果しかもたらさず、嫉妬した相手の女達は私の携番やアドレスをこっそり入手し、嫌がらせをしてくるようになった。

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