夜桜と朧月
『咲希達に、すげー一杯お年玉貰った。こいつらの方が、俺より金持ってそう』



何気に会話を変えて気を使ってくれたんだね、薫。


「へぇ!あ、私も咲希と多希にあげなきゃね。用意して待ってる」


そうだった。お年玉の袋を買うのを忘れてたな。


『お前からは要らない。それより、お前はいつアパートに戻る?俺の休みが6日までだから、それまでに帰ればどっか行きたいんだけどさ』



あ、そっか。薫の休みが結構長かったんだっけ?



「私も薫達と一緒に帰ろうかな。そんで、行くなら寒くないとこがいいよね。雪祭りとか」


氷点下だろうけど。


『ばーか。連れて行ける訳ねーだろ。水族館とかは?』


あ、いいなぁ、水族館!!



「行きたい行きたい!私が行きたい。咲希と多希にはクラウンアネモネフィッシュ見せたい」


あの赤い魚を、あの子達に見せてあげたいな。


『クラウン……何?』


ほら、言えない!


「ペンギンもいいね!なんか楽しみになってきた」


携帯の向こうでフッと笑う気配を感じた。


『元気出た?』


「うん、すごく。ありがと」



不思議。心が温まる。薫の言葉の一つ一つで。




『じゃあ、3日にそっちにお邪魔するから。あと、忘れてたけど、あけましておめでとう』

「あ……。うん。あけまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」



こちらこそよろしく。そう言って、暫しの繋がりは途絶えてしまった。

けれど、疚しさも、寂しさも、心の中には残っていない。

心に残るのは、安堵に包まれた、温かさだけだった。



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