夜桜と朧月

恐る恐る薫の方を見てみれば、怖いぐらいに無表情で私を見返す黒い瞳と視線が絡まった。


疚しい気持ちが一つも無いと言えば、嘘になる。


だから、この際自分がスッキリするために、薫には全てを打ち明けようと決意した。


「あの、さ…。お父さんが言ってた楓って人なんだけど」

「うん」


先刻までの酔いはどこへやら、薫の表情からは何も感情が読み取れない。


「元カレ、だと私は思ってた。……ちゃんと別れたわけじゃなかったけど……」

「思ってた、それで?」

「けど、向こうはまだ私に未練……っていうか、またやり直したいみたいで……」


飲み会で、赤坂君から伝えられた楓の気持ち。

それらを纏めて一言一言を言葉にするのが難しい私のこの感情は、薫に上手く伝わるだろうか?


「うん、そして?」

「でも、私はもう楓とは別れたい。楓の浮気が酷かった、のもあるけど……」

「……あるけど?」



二番目でも良いぐらい、薫の事が、好きだから。


「薫を好きになってしまったから。もう、楓には戻れない」

「……お前は、それでいいの?」


どうしよう。


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