夜桜と朧月
寝返りを覚えたばかりの赤ん坊に滑り台なんて、父は何を考えているのか。



「……来るんだろ、薫君」


ポツリと、父が言った。


「この子達が、大きくなって、これで遊べるようになっても」


父は誰をも見ていない。

何も映していない瞳は無意識で語っている事を現している。


「……来てもいいですか……?真愛と、一緒に」


少し俯いた父の目が、光ったような気がした。


「真愛。子供達の事、ちゃんと面倒みろよ……」

「見てるってば」

「そうじゃなくて。ちゃんと、母親として、だ……」


隣で薫が「お義父さん……」と、微かに呟いた。


「本当は一周忌を過ぎてから、話そうと思っていました。いきなりこんな事、本当にすみません……」

「……良い、別に。真愛が妊娠した訳でもないし。男女が二人で近くにいれば、そうなる事もあるだろうしな。……何より……」


表情を隠し、庭先を眩しそうに見つめる父の目は、確かに濡れていた。


「……俺も母さんも、真愛がそれで幸せなら、反対はしない」

「……しょっちゅう、咲希と多希を連れて来てあげる」

「だから、それは薫君が決める事だろうて」



はは、と笑う薫が「これからは頻繁にお邪魔するかも知れませんが、良いですか?」と、父に確認した。


「……結婚式は、どうするかなぁ……」


父が、項垂れて考え込んだ。


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