夜桜と朧月
とうとう薫が折れて、「あのさぁ…」などと切り出してくる。


「見せたくない訳。お前の生足。特に他の男。特に絶対領域。分かる?」

「……分かんない」

「だから、他の男にヤらしい目で見られるような格好をして欲しくないの。可愛い格好して欲しくないの!!俺以外の男の前で!!」

「……やきもちやき……」

「なんとでも言え。着いたぞ」


ベビーシートから其々子供達を降ろし、店内備え付けのベビーカーに乗せた。


「朝飯が軽めだったから腹減った。何か、食おう」


はい、とも、いいえ、とも言っていないのに、ずんずん歩いて先に行く。


どうなってんのよ、まだ機嫌悪いの!?勘弁して!

第一まだそんなにお腹すいてないし!





昼食はレストランコートで、各々好きなものを注文して食べた。

バイキング形式のうどん屋さんで、冷奴と薩摩芋の天婦羅を子供達のために注文する。

これを擂り潰して双子に食べさせるのだ。


自分用には温玉のせの温かいぶっかけうどん。

そして、薫は牛丼。あ、チーズ乗ったやつだ。

一口食べたかったけど、さっきからの、云わば冷戦状態のせいで素直になれない。



どんよりした空気で、豆腐や天婦羅の衣を外した薩摩芋を擂り潰して子供達に食べさせていると、徐に薫が「……今日はホワイトデーのお返し、買いに来た」そう言って、また黙々と食べ始めた。

「……いいよ、まだ早いし」

ちょっと意地になってしまったかな。



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