夜桜と朧月
私はその日を、ネックレスの時計に刻もうと薫に伝えた。

薫はその日を、店員に告げた。

刻み込まれる、特別な日。

「ネックレスのほうは特注になりますので、二~三週間程お時間を頂戴しても宜しいでしょうか?」

はい、と、二人の返事が重なった。



「お二人に合うサイズのリングが丁度御座いますので、リングは今、お持ち帰りになりますか?」

「持って帰ります。プレゼント用に包んで下さい」

薫が店員に頼み、リングは可愛いケースの中に納まり、仕上げにリボンを掛けられた。


久しぶりに見る、薫の笑顔。

店を出て、薫に「ありがとう」と、小さく呟いた。一瞬だけ重なった掌。

それだけでも、嬉しい。



その夜、子供達の前で、ひっそりと指輪の交換をした。

誰にも邪魔されない、されたくない、私達の道。

姉の結婚指輪の上に填められた、傷の無いリングは、ただ静かにそこに輝いていた。

これから先、どんなに傷だらけになっても、私達がそれを外すことがなきよう、この道をその光で照らしてくれるように、ただ願う。
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