夜桜と朧月
まだ高校を卒業して間もない頃、会えない時間に堪り兼ねて真愛を呼んだ。


短かった髪は肩まで伸ばされ、瞳には愁いを含ませている。




俺の知らない真愛が、そこにいた。



新社会人としての重圧からか、真愛はもうあの頃の無邪気さを無くしたのか。



そんな事は全く関知もしないで、俺はただ単純に真愛を抱こうとした。




真愛は、俺を拒否した。


初めての、否定だった。




そういう事だけには敏感で、何故か真愛に自身を全て否定された気がした俺は、自棄になってしまった。



偶々同じゼミに、中学時代に軽く付き合っていた女がいたのが良くなかった。



合コンで成り行きに任せて、気がついたらその女と一緒に繁華街のホテルに入って最後までやってしまっていた。

それを真愛に見られていたとも知らずに。



その後、俺の浮気を知った真愛は「別れたい」と言ったが、俺はひたすら謝罪した。もうしないから、と。赦して欲しい、と。


別れたくなかった。


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