夜桜と朧月
久々に訪れた校舎を感慨深く通り過ぎ、あの道場へ向かった。



部活をしている運動部の生徒達は、IDもつけず校内にいる私を興味深げな目で見つめている。






彼等の瞳には、私はどう映っているのだろう?





何もかもが煌めいて見える、その世代の彼等には。





ゆっくりと一歩ずつを踏みしめて、その木に近寄った。



時間の指定などしなかった待ち合わせなのに、彼はもう来ていて。



「……すげー久しぶり」




何故、そんなに晴れやかに笑えるの?




「……うん、久しぶり……」



私の声はこんなに震えているのに。


「桜の季節に間に合って良かった。もう、葉桜だと思ってた」

「今年は少し開花が遅かったから……。寒かったの」

「……そか」


会話が途切れても、それを繋ぐ手段を私はもう持たない。




「……今日、クリスマスに贈ったやつ、持ってきた?」



楓の問いは質問ではなく、確認なのだと知る。


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