夜桜と朧月
その問いに、こくりと頷く。



そして、バッグからあの箱を取り出し、楓に渡した。




「……包装を解かなかったのが、何よりの返事、だよな」

「………ごめん……」



何に対しての謝罪か分からず、言った私自身が苦笑する。



「……あの、さ……」


それきり楓は言葉に詰まってしまった。


「……わり。言いたいことも、聞きたいことも山ほどあんのに……。何て言えば良いのか、分からねぇ……」

「……うん……」




楓に今までの事を語るのが躊躇われた。だから、何も言うまいと決めた。



「………どんな奴……?」

「お姉ちゃんの、旦那さんだった人、だよ」

「は?何それ?」

「……亡くなったんだ。お産の時に。それで」

「……ああ、そ…か」

「うん」



最初に楓が何を想像したのか、大体は分かった。

だからそれだけは否定して、真実を一つ、紡ぐ。

「お産って。子供は?」

「双子でね。元気だよ。私が、母親代わりに育ててる……」

また、一つ。

「……そう、なんだ……」

「あの子達を……」

「もう、いいよ」


気がつけば楓の中に閉じ込められていて、なのに拒絶しない自分は、何故か冷静にそれを受け入れた。

「最後だけ、こうさせて」

それが最後だと、知っているから。


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