雪人形
 あの人と付き合い始めたのは、12月20日。初デートは、クリスマスイブ。友達からは、クリスマスの即席カップルと冷やかされたが、結果、もう10年も一緒にいて、結婚までしているのだから、即席カップルだって、捨てたものではない。
 その年は、近年まれに見る寒い冬で、イブの日にはすでに、白銀の世界が広がっていた。雪の道を、さくさくと踏みしめながら、私たちは、お互い無言のままで歩いていた。もちろん喧嘩しているとかそういうわけではない。何を喋ったらいいのか分からなかっただけ。周りのカップルたちが、楽しそうにお喋りしながら歩いていく。少し羨ましかった。
突然、彼が立ち止まって、しゃがみ込んだ。え?と、思ってみると、彼はその辺の雪をかき集めて丸めだした。周囲の人たちが、ちらっとこちらを見た。私は恥ずかしくなった。
 ぼふっ。
 急に、私の顔に何かがぶつかり、私は一瞬頭の中が真っ白になった。
 彼を見ると、作っていたはずの雪玉がない。そこでようやく私は彼に雪玉をぶつけられたのだと気付いた。今日のために一生懸命選んだ服が、雪で濡れてしまった。私は抗議の声をあげようとした。が、彼はにやっと笑うと、再び雪玉を作り始めた。私は慌てた。私は、その場にしゃがみ大急ぎで雪をかき集めた。
「えいっ!」
 私は雪玉を彼に向かって思い切り投げた。雪玉は、彼の横顔に当たった。
「いてえっ!」
と、彼は大げさに言うと、「やったな!」と笑いながら、私に雪玉をぶつけてきた。私も、負けずに投げ返す。
 こうして、突如雪合戦が始まった。街中で。やがて、誰かが通報したのか、遠くに警察の姿が見えると、「やばいっ!」と、彼が叫んだ。彼は私の手を引くと、全力で走り始めた。私も、思い切り走った。結局、この日、買い物も出来なかったのだけど、その後、私たちの間に会話が尽きる事はなくなった。

< 3 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop