おうちにかえろう
少し遅れて、彼女も椅子に腰かけた。
お父さんは、それでも動こうとしなくて、ただテレビの音だけが部屋に響いている。
「―――…突然呼び出して本当にごめんなさいね」
どのくらい経ってからだろう。
暫くの沈黙のあと、彼女がそう切り出した。
窺うような視線は相変わらずで、目の前にいるのに、私は直視出来なかった。
目を会わせたくなかった。
だって、ここに来たのは別に、この人のためじゃない。
だから、この人に謝られても、困る。
「……一人暮らしはどう?何か困ってることはない?」
「特にありません」
即答すると、彼女は言葉を詰まらせ、「そっか、そうだよね」と言って笑った。
一緒に笑えるわけなんてなくて、ただ、テーブルに視線を落としていた。
何なの。
別に、この人と世間話なんか、したくない。
そう思っていることを察したのか、彼女は小さく息を吐いたあと、また黙り込んだ。
また、テレビの音だけが聞こえる。
「………。」
信じられないくらいに、重たい空気。