おうちにかえろう






「………そうですか」



自分でも驚くほど冷静に、そう答えていた。


だって正直、今まで籍をいれていなかったことの方が不思議なくらいだ。


ずっとずっと、お父さんと付き合ってきたことを知っていた。


だから、いつかこうなるんだろうな、と思ってはいた。


でも、しなかった。




それには、理由があったから。






「―――送られてきたんだよ」




せっかく落ち着いたはずだったのに、お父さんの一声でまたドクンと鼓動が跳ねた。


お父さんは、相変わらず私に背を向けたままだ。


こちらを向く気すらないらしい。


だけど、そのことが、どこから生まれているのかも分からない焦りを煽った。






「…離婚届。母さんから」





“母さんから”




久しぶりに、本当に久しぶりにお父さんの口から発せられた言葉に、



目の前が、真っ暗になった。







< 105 / 199 >

この作品をシェア

pagetop