おうちにかえろう





―――母は、昔から浮気癖のある人だった。



極度の寂しがり屋と言ってしまえばそれまでかもしれないけれど、常に誰かに必要とされ、愛されていたい人だった。



寂しさを埋めるために求めるのは、娘の私じゃなくて、“父以外の男”。



仕事ばかりだった父への当てつけかのように、色んな男の人を家に連れ込んでいた。






『美月ちゃんいるんじゃないの?』


『大丈夫、もう寝てるから』




―――こんな会話を、何度聞いただろう。


初めて、寝室から漏れる母の淫らな声を聞いたときには、あまりのショックに放心状態になってしまった。


だって、縋るように呼ぶのは、間違いなく父の名前じゃなかったから。



気付かれないように部屋に戻って、布団にもぐりこんで、聞こえるわけもないのに耳を塞いだ。


ぎゅっと目を瞑って、息すら堪えて、ひたすらに朝が来るのを待っていた記憶がある。



まさに、恐怖だった。









< 107 / 199 >

この作品をシェア

pagetop