おうちにかえろう
―――母は、昔から浮気癖のある人だった。
極度の寂しがり屋と言ってしまえばそれまでかもしれないけれど、常に誰かに必要とされ、愛されていたい人だった。
寂しさを埋めるために求めるのは、娘の私じゃなくて、“父以外の男”。
仕事ばかりだった父への当てつけかのように、色んな男の人を家に連れ込んでいた。
『美月ちゃんいるんじゃないの?』
『大丈夫、もう寝てるから』
―――こんな会話を、何度聞いただろう。
初めて、寝室から漏れる母の淫らな声を聞いたときには、あまりのショックに放心状態になってしまった。
だって、縋るように呼ぶのは、間違いなく父の名前じゃなかったから。
気付かれないように部屋に戻って、布団にもぐりこんで、聞こえるわけもないのに耳を塞いだ。
ぎゅっと目を瞑って、息すら堪えて、ひたすらに朝が来るのを待っていた記憶がある。
まさに、恐怖だった。