おうちにかえろう
朔兄は、世間一般的に見て収入はいい方だと思う(あくまで予想だが)。
その割に、金の使い方が健全だ。
ケチとはまた違うけれど、とにかくまぁ無駄遣いをしない。
どんなに忙しくても、毎日自分で弁当作って持って行ってるし(なんなら俺らの分まで作ってくれるし)、スーパーの特売日は逃さないし(月末は俺らに負担が来るけど)、ガス電気水道の無駄使いは死んでも許してもらえないし(無駄使いが発覚したら飯抜きの刑だ)。
お前は主婦か、と突っ込みたくなる。
髪の毛だって、何かお洒落っぽくまとまってるけど天然もののウェーブだ。
とにかく、自分のことにお金を使うっていうイメージがない。
今日だって、タクシーくらい使えばいいのにと思うけど、恐らく奴の頭の中に“タクシー”という選択肢がまず生まれなかったのだろう。
その割に俺らの誕生日とかは張りきってくれるし…
もっと自分のことに金を使えばいいのに、と思うけれど、まぁ、それが朔兄という人間だから仕方ない。
現に、俺は朔兄がこんなんだから、今日までやってこられた。
「電車乗るまでは降ってなかったんだけどなー…つーか終電乗れてよかったわ。今日帰れねーかと思った」
ふぅ、と息を吐いて顔を顰めた朔兄は明らかに疲れていて、そんな顔を見てしまったらさっきまでのイライラはどこかに行ってしまった。
毎日遅くまで働いてるんだ。
これくらい、水に流してやるか。
「月末じゃねーのに忙しいの?」
「いや、今日は取引先と中々連絡取れなくて色々滞ってた」
「ふーん」
そう答えると、「興味なさそうだなおい」と突っ込まれてしまった。
別に興味がなかったわけじゃなくて、そうとしか返せなかっただけだ。
「土曜の夜は人多いなーこの辺…………あれ?」