おうちにかえろう
「…どうした?何があった?」
優しく、諭すようにそう聞いた朔兄。
檜山は、一瞬だけ顔を上げたけれど、朔兄と目が合ったからか、またすぐに俯いてしまった。
「………何もないです」
「うそつけ」
俺の気持ちは、朔兄が代わりに即答してくれた。
何もないことあるか。
何かあったに決まってんだろ。
何もなかったんなら、何でずぶ濡れなんだよ。
何で俺らと目を合わせようとしないんだよ。
不自然なまでに目を合わせないことなんて、今までなかったじゃないか。
怒ってるでもなく、泣いてるわけでもなく、本当に力ない顔だって、初めて見たんだ、俺は。
「構われたくないならもっと上手く嘘つけ」
少し、怒ったような声に、檜山の肩がぴくんと揺れた気がした。
朔兄の表情はここからじゃ上手く覗けないけれど、でも、怒ってるわけじゃなくて、心配してるんだ。
多分、心底。
「悪いけど今回は気持ち汲んでやれない。放っておくのとか絶対無理だから」
そう言って檜山の腕を掴んだ朔兄の手は、俺から見ても力強い。