おうちにかえろう
…悪いけど、俺も無理だ。
今回ばかりはさすがに、放っておけるわけがない。
檜山は多分、深くを突っ込んでほしくないんだろうけど、俺ら…というか、朔兄に捕まったのが運のつきだ。
朔兄が、こんな状態の檜山を逃がすわけがない。
「………放っておいてください……お願いですから…」
檜山らしからぬ震えた声が、響いた。
真下を向いてしまっているから、顔が見えない。
だけど、初めて、泣いてるかもしれないと思った。
「そのお願いだけは聞けない。ごめん」
「…そのお願いだけ聞いてください…」
「ごめん」
「……っ」
朔兄の手を振りほどこうとする腕は、ひどく弱々しい。
だけど、そのことが檜山の気持ちを表してる気がして、気付けば俺も、反対の手を掴んでいた。
「どこ行く気だよ、こんな雨降ってんのに」
逃がさないように、ぎゅっと手を握って、聞いた。
それを合図にして、檜山の力が弱まった。
力なく項垂れた手を、俺と朔兄でがっちりと掴む。
「……どこか行きます……」
「どこかって…」
「どうでもいいんです…」
「どうでもいいって何―――」
「―――私なんて別に…!!」
突然、張り上げられた声に、俺と朔兄は目を見開いた。
表情全部が見えるわけじゃない。
でも、悔しそうに、噛みしめている口元は、見ているだけでやり切れなくて。
「どうなってもいいんですもん…っ」
檜山の頬を伝ったのは、涙なのか、雨なのか、分からない。