おうちにかえろう
「もう面倒くせーからさ、とりあえずうちに来―――」
朔兄の声を遮ったのは、吹きつけた突風だった。
それを受けて、傘の骨組が壊れて、一瞬で原型を失くしてしまった。
辛うじて首から上は濡れずに済んでいたのに、傘の役割を果たさなくなった傘のせいで、一瞬でびしょ濡れになった。
「ギャーーー!!!!のんちゃん傘壊れた!!!!」
「見りゃわかるわ!!とりあえず雨宿りしようよ!!雨痛いから!!」
「いや、ここまで濡れたらもう守るもんなんてねぇ!!ダッシュで帰る!!!」
激しい雨に打たれて妙なテンションになった朔兄が、どさくさに紛れて檜山を担ぎあげた。
お姫様抱っこならまだしも、肩で担ぎやがった。
檜山は、見るからにぎょっとしていて、直後、ジタバタと暴れ始めた。
「ちょっ…な、何してんですか…!」
「確保!!」
「か、確保ってなに……ぃやああああああっ」
檜山の悲痛な叫びが、雨の中に消えていく。
暴れ喚く彼女をスルーして猛ダッシュし始めた朔兄には、呆れも通り越して尊敬の念すら生まれてきた。
なんつー強引な手段なんだ。
この光景、雨降ってなかったらただの変質者だからね。
おじさんが女子高生担いでたら、普通に逮捕されるからね。
(…それにしても…)
朔兄、まじで檜山のこと、どうする気?