おうちにかえろう
…ついこの間会ったばかりだよ。
まだ、雨宮さんのことだって名前くらいしか知らないし、私のことだって何も教えていないんだよ。
本当に面倒臭い女なんだよ、私。
相当ひねくれてるって、自分でも思うくらいだもん。
まーちゃんていう親友がいるのだって、奇跡なんだ。
私みたいな人、私だって、関わりたくないって思う。
それなのに…何で?
何で、雨宮さんは、私が必死になって作っている壁も簡単に乗り越えて、
手を差し伸べてくれるの?
本当に分からない。
雨宮さんの考えが、本当に本当に分からない。
分からないのに…
「…どうしてもうちに住みたくないなら今日何があったか話して。それが嫌なら観念してうちに住め」
どうしてこの人と話していると、ほっとするんだろう。
初めて会ったときから感じていた。
まるで、昔から知っているみたいな親しみを勝手に感じていた。
もちろん会ったことなんてないのに、本当に、変な感情だった。
きっと、果てしない優しさを持っている人なんだろう。
誰にでも、見返りを求めることなく、優しさを与えられる人なんだろう。
こんな人、いるの?
初めてだよ。
雨宮さんみたいな人。
「うちにいるの馬鹿ばっかだけどさ、俺も含めて。でも、一緒になって馬鹿出来んのっていいんだよ、絶対」
頭に、心地良い重さが加わった。
それは、雨宮さんの手で、ずっと思っていたけれど、やっぱり大きい。
そして、優しいんだ、やっぱり。
「毎日腹が筋肉痛になるまで笑わせてやるから。だから、とりあえずでもいいから、俺らと一緒に住んでみない?」
そんな風に、優しい笑みを落とされてしまったら、また眉間に力が入ってしまうじゃないか。