おうちにかえろう





「父さんたちが生きてる頃から下宿みたいなことはやっててさ、…じいちゃんが無理して建てたこの馬鹿でかい家をどうにか有効活用してやろうってことで始めたらしいけど、2人ともおせっかいな性格だったからむいてたみたいでさ。結構色んな人がこの家住んでた。家庭に問題抱えてる人とか、ほんと色々」




パンにジャムを塗り足しながらそう言った雨宮くんを、じっと見つめてしまった。


思考は全く別のところにあったからだ。



…沢山泣いたんだろうな、きっと。


ご両親が亡くなったとき。


だって、なんとなくだけど、多分…いや、絶対、優しくて温かい人たちだったんだろうなって思うもん。


雨宮さんと、雨宮くんを見ていれば、何となくだけど分かるもん。


だけど、全部私の勝手な予想だから、言葉には出せなかった。


代わりに、意識を雨宮くんに向けて、姿勢を正した。






「父さんたちが死んで下宿もどうしようかってことになったんだけど、朔兄は続けたいって言い出したんだよ。だから今も同じ形で続いてる」


「……。」




……そうだったんだ。



雨宮さん、続けたいと言ったんだ。



きっと、自分の仕事も忙しくて大変だと思うのに。



お父さんとお母さんの意思を継いだんだ。






「朔ちゃんのおかげで俺らもここに住めてるんだもんね!」


「ほんとにそう…朔ちゃんがいなかったら、私、路頭に迷ってた…」




入間さんと梅田さんは、そう言って顔を見合わせて優しく笑い合った。



もしかしたら彼等も、何か闇を抱えているのだろうか。



だとしたら、それを掬い上げたのは、……雨宮さんなのだろうか。



だって、私も救ってもらったんだ。



雨宮さんに、掬い上げてもらったんだ。




全部、雨宮さんが―――







(……あれ?)




そういえば、雨宮さんどこ行った?





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