おうちにかえろう
まーちゃんがいるだけで十分なんだ。
本当に、それだけで十分。
これ以上は求めるべきじゃないんだ。
分かっているはずなのに、どうしてやめられなかったんだろう。
…ここに、住むことを。
「湊、お前食ってきたんじゃないの?」
「えー!だって朔ちゃんの作ったパスタ食べたいんだもん!俺も混ぜてよ!」
「お前が食べたら俺の分が減るだろ」
「えーーー!!!だってさぁ…」
「声でかいよお前ら」
(…また声がだだ漏れ…騒がしいお家…)
だって、昨日からだもの。
慣れるはずもない。
一生慣れない気さえする。
だから、雨宮さんに昨日怒られたばかりなのに、
『玄関開けたら大きな声で“ただいま!!!!”』
『…す、すみません』
『謝らんでいいから言ってごらん、せーの!』
『…………た、……だいま…』
やっぱり、言えなかった。
だから、なるべく音を立てないように、そっと玄関のドアを滑らせた。
あれだけ騒がしかったんだから、私が帰ってきたことになんて、誰も気付かないだろう。