おうちにかえろう
それって、何だかむず痒い。
いや、別に、嫌だって意味じゃなくて…かゆい。
胸の奥らへんがそわそわする。
だって、何かこれ…
ここに加わったら、私、本当に、
“ここのうちの人”みたいじゃん…
「…、」
視線を感じて顔を上げると、頬杖をついた雨宮さんと目が合った。
…なぜ、ニヤニヤしているんだろう。
「…何かついてますか、顔に」
「いや、何か嬉しそうだなって思って」
今度は、にんまりした笑みを向けられてしまった。
嬉しそう?
何言ってるんですか。
「…別に嬉しくないですけど」
「へー、あっそう。じゃあ名前書くのやめたー」
「嘘です冗談ですいれてください仲間に」
気付けば、没収されそうになった紙を必死に掴んでいた。
咄嗟の行動だった。
と、いうか、この行動で気付かされた。
私…嬉しかったんじゃないか。
こんな、テーブルに身を乗り出してまで懇願するなんて。
「素直じゃないねぇ美月ちゃんは」
雨宮さんの、“全部お見通し”って目は、一気に居心地が悪くなるから嫌だ。
元の位置に置かれた紙を彼の代わりに睨みつけて、不貞腐れることしか出来ない私に向けられる視線は、やっぱりどこまでも優しい。
(……くそ、まただ)
雨宮さんは時々、私のペースを乱す。