おうちにかえろう
段々とこの家に慣れてきても、それだけは全然慣れない。
むしろ、そわそわがどんどん大きくなっていっている気がする。
「よし、じゃあ美月ちゃんの名前も足そうね」
そう断られてから、雨宮さんの手で書かれた名前。
“美月”
今まで何度だって書いてきた、見慣れすぎた文字。
だけど、不思議。
初めて見たみたいな感覚。
別のものみたい。
変な、感覚。
「……字、上手ですね」
「よく言われる」
冗談交じりに返されてしまったけれど、それに腹を立てることなんて勿論なくて、雨宮さんによって書かれた自分の名前をじっと見つめてしまった。
流れるように書かれた2文字。
(……変なの)
…今ここでこんなこと思うのは大分変だって自分でも分かっているんだけど、今、初めて思ったかもしれない。
私の名前、綺麗なのかもしれないって。