おうちにかえろう
全くもって聞き慣れない響きを、もう一度頭の中で繰り返してみた。
“美月”
…今、私の名前、誰が呼んだ?
「…悪いけど俺、忘れてただけだから」
「!!!」
毅然とした態度の彼を見て、愕然としてしまった。
完全に想定外だった。
彼の性格上、恥ずかしがって絶対に呼ばないものだろうと思っていた。
いや、正直彼の性格を語れるほど親しくはないんだけど、勝手なイメージというか…
そんなもんで決めつけていたのに、…あっさり裏切られた…!
「…正直、雨宮さんと雨宮くんがややこしい」
しかも、トドメまでさされて。
完全に逃げ場を失ってしまった。
「…どーすんの?今ここに居て決まりごと守れてないのお前だけだけど」
「う゛っ…」
トドメはまだ終わっていなかったらしい。
なぜか楽しそうに私を追い詰め出した雨宮くんに戸惑いながら、周りの人SOSを出してみても、
「そーだそーだー、観念しろーい」
「空気読んで美月ちゃん!空気!」
「…美月ちゃんファイティン…」
敵だらけだった。
しかも、心なしかみんなノリが軽い。
…そんなもんなのか?
私だけ、こんなに気張ってるのか?
「…ほら、呼んでみ、試しに」
「…は…」
「望って」
「……何で……」
「あーーそう。めんどくせーなぁ、したらアレだな、お前がバイトしてること学校に…」
「望」
若干食い気味でいった私を見て、雨宮くん…いや、望くんは目を丸くしていた。
やっぱり兄弟だ。
揃って、同じ手を使いよるとは。
「呼べんじゃん」
「、」
……笑顔も、そっくりだ。