おうちにかえろう
ガラガラ…
「!」
玄関のドアが開く音がして、はっとした。
誰か帰ってきた。
そう思って脱衣所の時計に目をやってみれば、時刻は18時を少し回ったところだった。
ひょっこりと顔を出して玄関を覗いてみると、そこに居たのは雛だった。
玄関の明かりも付けないでフードをかぶっているから、一見不審者だ。
「…おう、お帰り」
「……」
基本的にいつもテンションは低いけれど、今日は輪をかけて低いな。
必ず返事をする雛が、多分、俺の存在にも気付いていない。
意味もなく溜息を一つついて、近づいて行った。
「ひーな、お帰り」
「っ、…ああ、なんだ、…のんちゃんか…」
びくっと揺れたあとに捕まった大きな瞳は、一瞬動揺しているようにも見えたけれど、すぐにいつもの雛に戻った。
っていうか、なんだとか言うなよ、失礼な。
「悪かったな俺で。湊のがよかったか?」
「…うん…みなちゃんのがよかった…」
「お前って正直だよねそのへん」
そう言うと、頷きだけが返ってきた。
こいつ、本当に湊のこと好きだな。
…表情じゃ全然伝わってこないけど。
「みなちゃん帰ってきてる…?」
「…いや、まだ。今日あいつがスーパー寄ってくる日だろ」
「……あ、そっか……分かった、着替えてくる」
明らかに残念そうな声色でそう言った雛は、ゆっくり靴を脱いで、とぼとぼと自室へ向かって行った。
「………暗」
明らかに暗いな。
何かあったのか?