おうちにかえろう
「…よく分からんが死なないなら何でもいいや。別に食うの急がなくていいから」
ああ。
溜息をつかれてしまった。
だけど、本当にいい人だな。
もし私が逆の立場だったら、一刻も早く出て行ってくれと思うだろうに。
「本当に神様のような方ですね」
「だから何なんだよその顔」
さっきから顔のことを突っ込まれるけれど、もしかして睨んでいるとでも勘違いされているのだろうか。
そんなんじゃないのに。
まぁ、勘違いされるのはいつものことなんだけど。
ネクタイを緩めた彼は、テーブルの上に置いていたタバコを手に取って、台所へと入っていった。
換気扇のスイッチを入れて、タバコに火を付ける様子を、炒飯を食べながら見つめていた。
…背の高い人。
歳は20代前半だろうか。
スーツを着ているってことは、社会人だろう。
お洒落にセットされている、ウェーブがかった黒髪と濃いグレーのスーツが、妙にマッチしている。
要は、夜の仕事の人みたいだってことなんだけど。
「…すみません、もしかしてお仕事に行くところでしたか?」
「ん?違う違う、さっき帰ってきたとこ」
「…え?」
…やっぱり、夜のお仕事されてらっしゃるのかな?
「月末で仕事終わらなくてさっき始発で帰ってきた。これからちょっと寝てからまた仕事行く」
「………。」
…すみません、早々に立ち去りたいと思います。