おうちにかえろう
「座れ座れ、始めんぞ」
雨宮さんの一言で小さな言い争いはピタっと終わり、各々が自分の席へつく。
日常茶飯事なのかな。
仲悪いわけではなさそうだけど…騒がしいおうちだ。
「美月ちゃんも座んな、ほら」
先程入間さんが出してくれた椅子を、今度は雨宮さんが触れた。
それに気付いて席につこうとしたとき、漸く思い出した。
「…あ、すみませんこれ、買って来たんですが…よかったら皆さんで食べてください」
お土産にと買ってきた、タルト。
雰囲気に圧倒されて、渡すのを忘れてしまっていた。
「えー、なになにっ?何か買ってきてくれたの!?」
「タルトです。サツマイモとリンゴのやつ」
「まじで!俺甘いの超好き!ありがとう!」
入間さんは、甘いのが好きみたいだ。
よかった。
「わーい…タルトだ…わーい…」
梅田さんも好き…なのか?
テンションが一定なものだから判断が難しい。
「…俺甘いの苦手」
「…苦手だったか…ごめんね。でもまぁ雨宮くんならいいか」
「おい。どういう意味だよ」
じとっと睨まれたので、すぐに視線を逸らしてやった。
苦手な人が雨宮くんだったら、なんとなく許される気がしてしまった。ごめんなさい。
「、」
視線に気付いて目をやると、雨宮さんが目を丸くして私を見ていた。
何だろう…何か、珍しい物でも見るような、そんな目。
さっき、玄関でも同じような目で見られていたような気がする。
「…、雨宮さんも甘い物お嫌いでしたか?すみません」
そういった私に、彼は小さく笑った。
「…いや、甘いもんはかなり好き」
とても優しい笑顔で、それは甘いものが好きだからなはずなのに、私はなぜか一瞬だけ呼吸を忘れてしまった。