おうちにかえろう
「………。」
「…美月ちゃんお新香、お新香落としてる」
雨宮さんの突っ込みが、すんなりと耳に入ってきてくれない。
その前に聞いた情報を処理し切れていないからだ。
…あの…すみません。
今、なんと仰いました?
「……えっと、すみません、…なんか今…空耳が…」
「や、空耳じゃねーから」
何言ってんだこいつ、とでも言わんばかりの眼差しを受け、急いでテーブルの上に落としたキュウリのお新香を拾った。
「手づかみで食うんかい」
…雨宮くんの突っ込みも、最早聞こえない。
バリバリと、お新香をかみ砕く音が脳を刺激して、二日酔いによる頭痛が紛れていく。
「この間も言ったけど、うち民宿なんだよね」
「…聞きました…」
「俺、美月ちゃんのことほぼなんも知らないけど、一個だけ分かることがあって」
「…なんですか…?」
「絶対一人暮らし出来ないと思う」
雨宮さん。
きりっとした顔でなんてことを断言しやがるんですか。
頑張って生きて行こうと思ってる人に向かって、なんてこと…
「だから、ここでみんなで暮らせばいいんじゃねーかなって」
そう言って味噌汁をすすった雨宮さんは、加えて「いい考えじゃない?」と言って笑った。
さっきから、雨宮さんは私が答えづらい質問ばかりする。
だけど、ここは思い切って言ってしまおう。
恩人に対して失礼だとしても、ここだけは。
「すみませんお断りさせていただきます」
「そんなご丁寧に」
頭を下げ過ぎて、テーブルにゴチン、と額をぶつけてしまった。