奪取―[Berry's版]
11.関係―過去編―
 担当者たちの挨拶を受け、喜多も短い言葉と会釈を返す。秘書が大きくドアを開け待ち構える車に、すばやく身体を押し込んだ。座席の革が鳴るほどに背を預け、大きくひとつ息を吐き出してから。助手席に腰を落ち着かせた秘書より、喜多はモバイルパソコンを受け取る。同時に、先ほど会議中に配られたレジュメや企画書も、だ。喜多が指示を出すまでもなく、車はゆっくりとスピードを上げ始める。時間を惜しむように、目的地である本社を目指して。
 本日の開かれた会議は、数ヶ月後に控えた大型連休に向けての戦略企画がテーマであった。喜多が去年から任されている、複合施設を対象としたものだ。つい先ほどまで、数人の大人たちが頭を寄せ合い知恵を絞りあっていた場所がまさに、その複合施設でもあった。
< 110 / 253 >

この作品をシェア

pagetop