奪取―［Berry's版］

本日のように、突発的な私用にだけではなく、従兄弟と経営している探偵事務所へ舞い込んできた依頼者と接触する際などにも、喜多は使用し重宝していた。
　毛足の長い絨毯の敷き詰められた短い通路を進み、部屋の奥を目指せば。既に春花の姿があった。壁一面を覆うガラスを通し映る夜景を見下ろして。ドアの開閉音で既に喜多の来訪に気付いていただろう春花が、笑みを浮かべ喜多を出迎える。両手を広げ、喜多は春花を抱きしめた。

「全国ツアー？」
「そう。喜多との付き合いを始めてから、初めてのことでしょう？だから。始まる前にゆっくり会いたいなと思ってね。今日は喜多も時間が取れてよかったわ」