奪取―[Berry's版]
 織りの帯は、基本的に礼装用が多い。しかしその中でも、彼が手がける図案は非常に繊細なものが多く、緻密でもあった。描かれている題材や構図のみに限らず、色合いにも彼の拘りが伺えるものばかりで。織り上げることの出来る職人も、織り機もごく限られたものを使用し、出来上がる。故に、彼の作品は、一点モノが多い。ファンも多くいるため、簡単に手に入るものではなかった。

 学生であった絹江が、彼の作品を手に入れられることは出来なかったが。とある呉服問屋で初めて、直に彼の作品に触れたときには、涙が出るほど感動したものだ。
 その時、偶然にも。喜多の父親が居合わせていたのは、絹江の幸運であった。

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