奪取―[Berry's版]
 喜多の父親は、絹江が作品を通し勝手に想像していたような神経質で頑固な職人肌の人間ではなかった。着物を前に、嬉々とする絹江に好感を抱いたのだろう。喜多の父親は作品の説明のみならず、絹江を自宅へ招待までしてくれたのだ。
 そこで、絹江は喜多と初めて顔を合わせることになる。偶然にも同じ年であったふたりは、両親を交え、初日に朝まで酒を交わすこととなったのだ。
 意気投合したふたりの交友はその後も、喜多の両親も交えながら続いていったのだった。卒業を迎えるあの日まで――。

 喜多を目の前にしながらも、絹江は不思議に感じられた。喜多が未だに独身と言うことに。
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