奪取―[Berry's版]
自身を呼ぶ声に、絹江は身体を捻り振り返る。そこには、見知った人物の姿があった。思わず、絹江の頬が緩む。相手は絹江の隣で、歩みを止めた。
「どうしたんですか?生徒さんの見送りにしては、長いこと、立ってますけれど」
「見てたの?将治《しょうじ》くん」
「俺の職場をどこだと思ってるんですか」
「そうよね……ちょっと、考え事」
絹江は、隣に立つ将治の自分より少し高い位置にある眸を見上げる。目尻が少し上がった猫目は、ノンフレームの眼鏡の奥で柔らかな弧を描いていた。髪も、服も、全身黒で揃えられた出で立ちだが、服が特殊なデザインであるため威圧感がない。燕尾服のようなシャツの後ろが、風にたなびいている
「どうしたんですか?生徒さんの見送りにしては、長いこと、立ってますけれど」
「見てたの?将治《しょうじ》くん」
「俺の職場をどこだと思ってるんですか」
「そうよね……ちょっと、考え事」
絹江は、隣に立つ将治の自分より少し高い位置にある眸を見上げる。目尻が少し上がった猫目は、ノンフレームの眼鏡の奥で柔らかな弧を描いていた。髪も、服も、全身黒で揃えられた出で立ちだが、服が特殊なデザインであるため威圧感がない。燕尾服のようなシャツの後ろが、風にたなびいている