奪取―[Berry's版]
「もしかして、最近待ち伏せしている男性を待ってるんですか?」

 弾かれたように、絹江は将治の眸を捉えた。そしてひとり、「ああ……」と納得するのだ。公の場で喜多は絹江を待っていたのだ。誰かの目に留まっていたとしても、何も不思議ではない。むしろ、今まで誰にも触れられなかったことを幸運と思うべきなのだろう。
 将治の突然の問いに、絹江は首を振っていた。待っていたわけではない。来ないことは分かっていたのだから。だが、どこかで期待してしまっていただけのこと。

「違うわよ」
「でも、親しそうに見えましたよ。絹江さんがプライベートで男性と一緒に居る光景は珍しいですから」
「……よく見てるのね」
「それはもちろん。絹江さんのことですから。もしかして、いい人……ですか?」

 絹江は、その問いに答えることはない。ただ、苦笑を浮かべ将治の顔から視線を逸らしたのだった。

< 165 / 253 >

この作品をシェア

pagetop