奪取―[Berry's版]
「喜多くん、失礼だけれど。今まで一度も結婚は?」
「一度もないよ」

 絹江の質問に、喜多はやや呆れたように苦笑を浮かべる。気付いていたことだけれども、と前置きをしてから。

「絹江さん、釣書にすら目を通していないだろう。見合い相手が誰かも分かっていなかったみたいだし」
「わっ、ごめんなさい。それを言われると辛いわ。でも、驚いた。喜多くん、早く結婚しそうな話をしていたから」
「大学時代はそのつもりだったけれど……。うん、俺の方もいろいろあってさ」
「もしかして、……例の従兄弟くん?」

 喜多の言葉で、絹江は彼の従兄弟の存在を思い出す。言葉を交わしたことはないが、数回だけ会ったことのある同じ年の従兄弟を。彼のことを、喜多は実の兄弟のような存在だと言っていたこともだ。
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