奪取―[Berry's版]
 口調の変わった喜多の言葉に、秘書は首を傾げ先を促す。

「オープニングセレモニーに呼ぶ歌手の候補が見つかった。担当に話をおろしておいてくれ」
「わかりました」
「さて、今日はこれで帰るよ。明日の予定は?」
「はい」

 手帳を開き、明日の朝からの予定を口にする秘書に耳を傾けながら。喜多は考えていた。彼の言い分も一理はあるだろう、と。
 現在、探偵業の中で、喜多が占める役割は酷く小さいものになっていた。大部分は、箕浪がひとりでこなしている。それでも、依頼者との接触に時間を取られていることは間違いない事実だった。喜多が好きで請け負っていることに嘘偽りはないが、絹江と過ごす時間を奪われていることもまた、事実だ。

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