奪取―[Berry's版]
「きぬちゃん不足。充電」
「ちょ、ちょっと!喜多くん!ここ、外だよ」

 一向に緩みそうにない喜多の抱擁に。絹江は僅かな抵抗として、彼の背中を叩く。帰宅ラッシュ時刻ほどではないが、全く人通りがないわけでもない。それに、ここは絹江の仕事場の目の前なのだ。誰がどこでみているかわからない。今も、どんな視線が向けられているか。絹江は周囲が気になり仕方ない。
 数十秒ほどの拘束の後、絹江はようよう解放される。顔を朱に染めたまま睨みつける絹江の視線を、喜多は変わらず柔らかな眸で見つめていた。
 するりと。肩から降りてきた喜多の手は、当たり前のように、絹江の手を捕まえる。温もりを求めるように、その指は絹江の指と絡まりを求めていた。

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