奪取―[Berry's版]
「帰ろうか」

 喜多の問いに、絹江は小さく。首を縦に振ったのだった。

 喜多が持つ鍵を使い、開錠した部屋に。ふたりは揃って足を踏み入れる。帰宅途中に購入した材料で、絹江が手早く調理をした。向かい合い、他愛無い会話と共に、食事を済ませ、順番に入浴し、一日の疲れを落とす。
 当たり前のように、ふたりは並んでベッドへ身体を横たえた。絹江の身体を両手で抱え込み、喜多は絹江の髪に顔を埋める。大きく、深呼吸をひとつ。

「さっきまで、違う匂いだったのに。また、同じ匂いだ」
「同じ石鹸もシャンプーも使ってるもの」
「そうだね、同じだ」

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