奪取―[Berry's版]
たったそれだけのことだと言うのに。あまりにも、嬉しそうに零す喜多の声に、絹江は恥ずかしさを感じる、くるりと身体を転がして。喜多の腕の中で、絹江は背中を向ける。
小さく笑う喜多の声を聞きながら、頬が僅かな熱を帯び始め、絹江もまた、自身が喜多の匂いに安堵していることに気付いていた。
前は感じなかったことだ。自宅に帰ると、寂しさを感じる。ひんやりと冷え切った部屋、発した言葉が、誰に拾われることもなく床へ転がってしまう寂しさ。疲弊が、更に重さを増したように、両肩へ圧し掛かる感覚。
だが、久しぶりに喜多の部屋に足を踏み入れてみると、どうしたことか。懐かしさを感じ、安堵を覚えたのだ。喜多の匂いを感じて。肩の力が抜けてゆくのを、絹江は自覚していた。
小さく笑う喜多の声を聞きながら、頬が僅かな熱を帯び始め、絹江もまた、自身が喜多の匂いに安堵していることに気付いていた。
前は感じなかったことだ。自宅に帰ると、寂しさを感じる。ひんやりと冷え切った部屋、発した言葉が、誰に拾われることもなく床へ転がってしまう寂しさ。疲弊が、更に重さを増したように、両肩へ圧し掛かる感覚。
だが、久しぶりに喜多の部屋に足を踏み入れてみると、どうしたことか。懐かしさを感じ、安堵を覚えたのだ。喜多の匂いを感じて。肩の力が抜けてゆくのを、絹江は自覚していた。