奪取―[Berry's版]
「まあ……色々ね」

 即座に適当な理由を見繕うことも出来ず、絹江は誤魔化す方法を選ぶ。
 視線を合わせようとしない絹江に。喜多は、頬杖をつき思案する。絹江を視界に捕らえたままに。一度、ゆっくりと瞬きをして、大きなため息をついてから。喜多は口を開いた。

「なるほどね。絹江さんには絹江さんの理由があるんだろう。でも、断るのはもう少し時期を待ってもらってもいいかな?」
「何かあるの?」
「見合いした当日に断られただなんて親に知られたら、なんて言われるか。あの両親のことだ。美味しい酒のつまみにされるのは、目に見えてる。不甲斐ない息子だってね。だから、頼むよ。古くからの友人の頼みだと思ってさ」

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