奪取―[Berry's版]
 室内を淡く照らしているのは、数箇所に置かれたアロマキャンドル。浴槽に張られた湯には淡い色が付いており、互いの素肌を上手に誤魔化していた。お陰様と言っていいのだろうか。その様を眺め、顔から火が吹き出るのではないかと思うほどの羞恥を覚悟していた絹江の口から。安堵のため息が、知らぬうちに零れる。
 足が伸ばせるほど広い浴槽に、再び、後ろから抱きかかえられながら。絹江は喜多とふたり、湯に浸かっていた。背中から伝わる喜多の鼓動。肩へ預けた頭に、喜多が唇を落とす。耳にも、ひとつ。くずぐったさを感じつつ、誤魔化すように両手ですくった湯を肩へかけ。絹江は、不意に浮かんだ言葉を喜多へ投げかけた。

「喜多くん。大学時代から、私のことを好きだったって言ってくれたけれど。どうして、私なの?」
「なに?急な質問だね」
「ん、今まで、聞いたことなかったから」

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