奪取―[Berry's版]
 絹江の頭に額を預け、喜多は小さく唸る。聞いてはいけなかったのかと、絹江は喜多の腕の中で身体を回転させた。俯いたことで、邪魔をする前髪を手で避けつつ、喜多の眸を覗き込む。視界に捉えた彼の眸と唇が、三日月を描いていた。

「秘密」
「どうして?」
「時期がきたら、話すよ」

 問えば、欲しい答えを差し出してもらえると思っていた絹江にとって、喜多の言葉は予想外であった。突如として湧いた疑問ではあったものの。答えが手に入らないとわかると、知りたくなるのが人の性で。
 絹江は記憶を辿り始めていた。大学時代の喜多との関わりを。だが、何が彼の琴線に触れたのか、絹江には検討もつけられなかった。
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