奪取―[Berry's版]
 僅かに、唇を尖らせながら、視線を斜め上へ上げている絹江を前に、喜多の表情は更に柔らかいものになる。絹江の濡れた前髪を梳きつつ、喜多は続けた。

「きっかけは何にせよ。何かに熱中すると周りが見えなくなることも、頑固なところも、実は慎重なところも。全部。俺は好きだよ」
「それは……褒めているの?」

 答えを口にすることなく、喜多は絹江の肩へ唇を寄せた。僅かな痛みが絹江を襲う。反射的に、絹江が顔を顰めた直後、喜多が顔を起こす。

「何?」
「秘密」
「また?」
「――きぬちゃんが、俺の気持ちに答えをくれたら。俺も全部答えるよ」

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