奪取―[Berry's版]
 初めての喜多の追求に、絹江は返す言葉を失う。曖昧に誤魔化し、適度な距離に安堵していた。絹江の心を見抜いているかのような、喜多の言葉。眉を下げる絹江に、喜多は苦笑を浮かべた。

「急かしてるわけじゃない。そんな顔、しない」

 これ以上は何も言わなくてもいいと言うように。喜多は絹江の唇を塞いだ。熱気と湿度が充満する浴室内ゆえか、喜多から与えられる甘美な舌の愛撫ゆえか。鈍くなってゆく思考が、答えを探そうとする絹江の邪魔をしていた。
 互いの唇を貪りながら、喜多が絹江の身体を掬い上げ、浴室の壁へ押し付けた。火照る絹江の身体を、タイルが程よく冷やす。僅かに離れた喜多の唇から、言葉が零れた。

「好きだよ」

 たったそれだけの言葉が、冷め始めた絹江の身体を再び熱くさせていた。心の真ん中から。

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