奪取―[Berry's版]
 現在、絹江はとあるホテルの一室に居る。通常の宿泊スペースよりも広いこの部屋には、将治が持ち込んだであろう全身を映す大きな鏡が数枚置かれている。その一枚の前に、絹江はてるてる坊主の様なケープを被せられ、椅子に座っているのだ。隣には、今まで言葉を交わしていた女性が立っている。眉を下げた絹江と、その女性の視線が絡む。承知したかのように、女性は絹江に柔らかい笑みを返す。
 彼女は、将治が用意したスタッフのひとりであり、今、絹江のメイクを施している。隣にも、絹江と同様にドレスアップの準備中である女性が数名座っていた。

 将治の店で、着物では駄目だと言われた絹江は、何の説明を受けることなく、腕を引かれここまで来ていた。
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